11/21/12

Conference On Market Quality が開催されました (2012/11/2)

11月2日(金)にウェスティン都ホテル京都で,Conference on Market Qualityが開催されました.

◆ Youngsub Chun (Seoul National University) “Subgroup Additivity in the Queueing Problem”

待ち行列(queueing)とは,何らかの財・サービスを享受するために待つ主体の行列ことです.例えば,病院や生産システム,空港などの設計などがあります.この行列に並ぶような確率的な振る舞いをするシステムの混雑現象を捉える,また効率的なサービス設計を行うような目的のために数理モデルを用いて研究を行っているのが待ち行列理論で,オペレーションズ・リサーチの1分野です.

本研究はその待ち行列のなかでも,特にs-サブ・グループ可算性(s-subgroup additivity)と5つの配分ルールに関する研究です.s-サブ・グループとは本来n人の主体を扱う待ち行列問題を,より少ないs人ずつのサブ・グループの問題を用いて考えます.そして,主体の効用に関して適切な配分ルールを採用することで,n人問題の場合と同じ効用水準が達成できるというものです.

最初にある配分ルールがs-サブ・グループ可算性といくつかの基本公理(queue efficiency,Pareto indifference,equal treatment of equal)を満たす場合に,そのルールは(s+1)-サブ・グループ可算性が満たされることが報告されました.次に,理論的に2-サブ・グループを満たす4つの配分ルールと3-サブ・グループを満たす1つの配分ルールの満たす性質を紹介していただきました.

◆  Takashi Komatsubara (Kyoto University) “Price Competition or Price Leadership“

現実の市場において価格競争が観察されることがあります.一方で,電力会社などのように企業が独占状態にあるような場合,また複数の企業が暗黙的に結託(共謀)しているような状況も観察されることもあります.

しかし現代の多くの文献では,企業は独占力を持つ,あるいは共謀を維持することができないため価格競争を行うと初期設定で仮定されており,なぜ企業が積極的に価格競争を行うのかを理解することは困難です.

本研究では同質財市場において,初期設定ではなく複占企業の積極的な戦略的行動の結果として,価格競争構造が内生的に形成されることを説明することが目的です.供給に対する需要の相対的なサイズがある閾値を越える場合には,両企業は価格リーダーになろうとします.さらに企業間の費用の差がある程度大きい場合に価格競争が生じることが示されます.そうでない場合には,一方の企業は価格リーダーになり,別の企業は価格フォロワーになることが報告されました.

◆ Tadashi Sekiguchi (Kyoto University) “Multimarket Contact under Demand Fluctuations: A Limit Result“

本研究は,需要が不確実である場合にも企業が複数の市場で競争する場合に共謀が起こり易くなることを,無限回繰り返しゲームを用いて示しています.

需要に不確実性がなければ,複数の市場で競争する場合に,共謀が起こり易くなることは以前から知られていました.それに対して,Rotemberg and Saloner (1986)は企業が単一の市場で競争する場合には,需要が不確実なら共謀が起こり難くなることを示し,Bernheim and Whinston (1990)は(需要に不確実性がある場合でも)複数の市場で競争することは共謀を起こり易くする(少なくとも阻止することはない)ことを示しました.

報告では,需要の不確実性と複数の市場における競争という相反する要素が共謀の発生にどのように影響するかが述べられ,主要な結果として企業が競争する市場の数が増えるに従って共謀を阻止する要因は縮小することが報告されました.

◆ Satoshi Mizobata (Kyoto University) “Global Convergence of Russian Emerging Multinational Corporations“

多国籍企業は先進国の企業が途上国の資源と市場機会を求め,途上国がそれらを提供するホストとみなされてきました.しかし,2000年代からBRICsの台頭などから新興国の多国籍企業が注目を集めています.なかでも,ロシアの多国籍企業は多くの経済学者のテーマですが,組織構造という観点からロシアの多国籍企業を研究しているものは多くはないようです.

本研究はロシアの多国籍企業の組織構造に注目し,その発生と発展の前提条件,形成過程,進化と動機を探っています.ロシアは資源に恵まれているため天然資源や,エネルギー,冶金部門などに多国籍企業が多く,またそれらは政府や旧ソ連の遺産,CIS国との関連性が強いという特徴が挙げられます.そのため,特定の資本流出入ルートとその責任構造との強い関係,明確な所有権構造のない多国籍企業と産業構造が存在し,課税回避と危機的状況における政府援助に関して海外事業を利用するなどの特性があるようです.

このような議論から,新興国における多国籍企業理論の修正の必要性,とくにロシア型多国籍企業の存在の重要性が指摘されています.

◆ Andrei Yakovlev (The National Research University) “Industrial Associations as a Channel of Business-Government Interaction in Imperfect Institutional Environment: the Russian Case“

Business Association (BA) がロシアの経済発展に与えた影響についての報告されました.

多くの既存の実証研究ではBAの否定的な側面が指摘されていますが,報告では市場の失敗等の下ではBAが市場を支えるという肯定的な側面について論じられました.さらに次の二つの実証結果が報告されました.一つ目は,輸出や投資に積極的な企業はそうでない企業よりもBAに加入していることが多い.二つ目は,BAに加入している企業はそうでない企業よりも当局との関係が深い.つまり,BAに加入している企業とその地域の当局は互いに援助し合う関係にあるようです.

◆ Byung-Yeon Kim (Seoul National University) “The Political Economy of Private Firms in China“

本研究では,中国共産党との政治的結びつきと民間企業活動の関係を実証的に論じています.

類似の問題を論じている研究は存在するものの,それらは静学的な手法をとっています.本研究は中国の私企業の政治的関係を動学的に論じた最初の研究です.実証結果は次の通りです.起業家が中国共産党員であることでレントを得ているとは言えない.また,起業家が中国共産党員であれば,その企業はそうでない場合に比べて銀行から融資を受け易いものの,企業のパフォーマンス自体は向上しないということが報告されました.

11/14/12

シンポジウム「過去の文明・今日の文化の課題」(2012/10/20)開催報告

2012年10月20日には、前日開催されたサンタフェ・京都シンポジウムの関連企画・特別レクチャーとして、京都大学総合博物館の講演室とロビーにおいて、「過去の文明・今日の文化の課題 マヤ文明とモンゴルを例として」が開催されました。

大野照文総合博物館館長の挨拶の後、考古学者のジェリー・サブロフ サンタフェ研究所所長が「マヤ文明の衰退から何を学ぶか」について、そして茨城大学の青山和夫教授が「マヤ文明の起源を求めて:セイバル遺跡の再調査」と題して講演を行いました。

続いて、サブロフ所長の夫人で政治考古学の研究者、そしてモンゴルの専門家でもあるポーラ・サブロフ サンタフェ研究所教授が、「モンゴルにおける封建主義から民主主義」と題して講演を行いました。

最後に、加藤美典さんによりモンゴルの伝統楽器、馬頭琴の演奏が行われ、美しい音色が、一般より来館された多数の参加者の心を魅了し、特別企画は成功裏に終了しました。

(記事:青木隆明)

サンタ・フェ/京都シンポジウム・特別レクチャー「過去の文明・今日の文化の課題 ~マヤ文明とモンゴルを例として~
2012/10/20
日時:平成24年10月20日(土)場所:京都大学総合博物館・講演室とロビー
プログラム
13:00~13:10
開会挨拶:大野照文(総合博物館館長)
13:10~14:30
ジェリー・サバロフ(サンタフェ研究所所長)
「マヤ文明の衰退から何を学ぶか」
14:30~15:10
青山和夫(茨城大学教授)
「マヤ文明の起源を求めて:セイバル遺跡の再調査」
15:25~16:45
ポーラ・サバロフ(サンタフェ研究所教授)
「モンゴルにおける封建主義から民主主義」
16:45~17:15
加藤美典
モンゴルの伝統楽器馬頭琴の演奏
17:15~19:00
懇親会

★ポスター (PDF/272KB)
主催:統合複雑系科学国際研究ユニット・京都大学総合博物館・平成24年度統合地球環境研究所インキュベーション研究(IS)グローバリゼーションを終わらせる「新時代の生き方作法」リテラシーの構築-新京都(みやこ)モデルの提案―チーム後援:京都大学経済研究所

11/14/12

サンタフェ/京都 シンポジウム “複雑系科学への招待” (2012/10/19) 開催報告

2012年10月19日 (金)の午後1時より、京都大学理学研究科セミナーハウスにおいて、「サンタフェ・京都 シンポジウム “複雑系科学への招待”」が、京都大学学際融合教育研究推進センター統合複雑系科学国際研究ユニットと経済研究所の共催で、下記のプログラムで開催されました。

淡路敏之 京都大学理事、そして中村佳正 学際融合教育研究推進センター長による挨拶の後、サンタフェ研究所のジェリー・サブロフ所長が、サンタフェ研究所の紹介と複雑系適応システムの研究についての講演をされました。サブロフ所長は考古学者で、マヤ文明の研究者でもあります。

続いて、京都大学の複雑系研究を担う第一線の研究者の方々より、様々な分野から最新の研究動向について発表がされました。まず物理化学分野を代表して工学系研究科の岡二三生教授が、X線CTを用いた局所変形土砂の可視化について、そして化学研究所の渡辺宏教授が高分子ポリマーの分子運動の複雑性と単純性についての研究発表を行いました。

続くセクションでは、工学系研究科の小林哲生教授が“意識”の脳内メカニズムを探る鍵としての両眼競合について、そして生態学研究センターの山内淳教授が発展的協調ゲームにおけるペイオフとダイナミクスの関係についての発表をおこないました。

最後に、総合博物館の大野照文館長が大学博物館の立場から人文科学と自然科学の融合について、そして経済研究所の三野和雄教授が世界経済におけるサンスポット・景気循環についての講演をおこないました。

複雑系研究を志す様々な専門分野の学生、研究者、そして一般の方々が多数参加され、当初のスケジュールが大幅に延びるほどの質問が寄せられ、熱気と盛況のうちにシンポジウムは終了しました。

(記事:青木隆明)

サンタフェ/京都 シンポジウム “複雑系科学への招待”
2012/10/19
日時:平成24年10月19日(金)場所:京都大学理学研究科セミナーハウス
プログラム
13:00~13:10
挨拶:
淡路 敏之 (京都大学理事)
中村 佳正(学際融合教育研究推進センター長)
座長:村瀬 雅俊(京都大学基礎物理学研究所)
13:10~13:50
ジェリー・サバロフ(Santa Fe 研究所)
“The Santa Fe Institute and the Study of Complex Adaptive Systems“

座長: 杉山 弘(京都大学大学院理学研究科)
13:55~14:25
岡 二三生(京都大学大学院工学研究科)
“Visualization of localized deformation of unsaturated sand using micro-focus X-ray CT and stability during infiltration“

14:25~14:55
渡辺 宏(京都大学化学研究所)
“Complexity and Simplicity in Polymer Dynamics“

座長: 福山 秀直(京都大学大学院医学研究科高次脳機能総合研究センター)
15:05~15:35
小林 哲生(京都大学大学院工学研究科)
“Binocular Rivalry: A key phenomenon to explore brain mechanisms of consciousness“

15:35~16:05
山内 淳(京都大学生態学研究センター)
“Relationship between payoff function and evolutionary dynamics in evolutionary cooperative game“

座長: 吉村 一良(京都大学大学院理学研究科)
16:15~16:45
大野 照文(京都大学総合博物館)
“Reunion of human and natural science: a view from university museum“

16:45~17:15
三野 和雄(京都大学経済研究所)
“Sunspot-Driven Business Cycles in a Global Economy“

★ポスター (PDF/338KB)
主催:京都大学学際融合教育研究推進センター統合複雑系科学国際研究ユニット/京都大学経済研究所